人生100歳時代!教育訓練給付金の拡充を家計の強い味方としよう
令和6年度の雇用保険法改正により、2024年10月1日以降に受講を開始する教育訓練に対しての給付率が10%引き上げられました。
“人生100歳時代”と言われて久しい今日、ミドル・シニア世代にとっては、それまでの仕事で培った知識や経験を今の時代に合わせてアップデートすることで、これからの「働き方」が大きく変わっていくということは巷間言われるところです。
「リスキリング」とは、働きながら仕事に必要な新たな技能を習得し、仕事の幅を広げ、仕事の役割の選択肢を増やすことにあり、シニアになっても一人一人が社会との関わりを維持しながら、生き生きとした生活を送る社会を目指すためのキーワードとなっています。今回の制度拡充は“人生100歳時代”に合わせたキャリアプランをお考えのシニア世代にとって、家計への見方となりそうです。
本コラムでは、制度の基本を含め、今回の改正点を見て行きましょう。
1.教育訓練給付金とは
今回の教育訓練給付率の引き上げは、家計負担を抑えながら、キャリア・アップやキャリア・チェンジへの準備を行い、夫々ご自身のセカンドキャリア形成プランを実現を目指す方への助けとなる公的支援の拡充です。
教育訓練給付金とは、1998年に失業等給付(「求職者給付」「就職促進給付」「教育訓練給付」「雇用継続給付」の4種類)の一つとして雇用保険制度の中に設けられました。
主として現に就業中の者が働きながら資格取得をする場合や、必要な技能などを身に着けるための受講料の一部を給付する制度で「家計の面から支援」を受けられます。
給付申請が出来る主な条件は「現在雇用保険に3年以上加入している」もしくは「離職後1年以内で、雇用保険に3年以上加入していた」ですが、詳しくはハローワークにて「教育訓練給付金支給要件照会」を行うことが望ましいですね。
2.令和6年度の改正のポイント
「専門実践教育訓練」「特定一般教育訓練」「一般教育訓練」の3種類があり、それぞれ目的が異なります。
「専門実践教育訓練」は、被雇用者が中長期的にキャリア形成を目指す際に、高度な専門的な技能や知識を身に着けるための教育訓練です。
2024年10月1日時点の給付対象講座数は3,011講座です。例えば、業務独占資格又は名称独占資格の取得を目標とする養成課程としては、介護福祉士、看護師、社会福祉士などの福祉系の専門資格取得講座があります。退職後に地域社会で福祉ボランティア系のお仕事を目指すシニア世代などに注目されています。
専門実践教育訓練給付金は、2024年9月30日までの受講開始に対しては、教育訓練経費の50%(年間上限額40万円)が受講開始日から6か月ごとに支給され、加えて、訓練時に離職をしていた者が、訓練終了日の翌日から起算して原則1年以内に雇用保険適用事業所に雇用された場合、またはすでに雇用されている者が、訓練修了日から原則1年以内に、その訓練に関わる資格を取得した場合は、追加で教育訓練経費の20%(年間上限額16万円)が給付されます。
2024年10月1日以降の受講開始に対しては、訓練終了後の賃金が受講開始前の賃金と比較して5%以上上昇した場合には、さらに教育訓練経費の10%(年間上限額8万円)が追加給付されます。
「特定一般教育訓練」は、離職中の被雇用者が速やかに再就職を実現し、早期のキャリア形成を目指すことを目的としています。
2024年10月1日時点の給付対象講座数は801講座で、比較的短期で業務に必要な資格を取得するものとなっています。
教育訓練給付金は、2024年9月30日までの受講開始に対しては、教育訓練経費の40%(年間上限額20万円)が訓練終了後に給付されています。2024年10月1日以降の受講開始に対しては、教育訓練経費の10%(年間上限額5万円)が追加給付されます。
「一般教育訓練」はそれ以外の雇用の安定・就職の促進に資する教育訓練であり、その内容は多岐にわたり、外国語の検定資格講座や大学・大学院等の科目履修講座でも対象となる講座もあります。受講費用の20%(上限10万円)が訓練修了後に支給されます。
一般教育訓練給付金については、今回の改正の対象にはなっていません。3.事例説明
「専門実践教育訓練」の給付を分かりやすく、事例を示して説明しましょう。
(事例) 社会福祉施設に正社員としてお勤めのAさんは、社会福祉士の資格講座を受講しました。
訓練期間は1年間で、年間の授業料は80万円です。前期・後期の6か月ごとに40万円を納付します。
現在のAさんの給与所得は年間400万円(総支給額)ですが、社会福祉士の資格取得後は管理職に昇進し、基本給や資格手当の加算により給与は430万円となる見込みです。
4.制度利用時の留意事項
教育訓練給付金制度をお考えになる際に、ご留意頂きたい点は以下の3点です。
① 給付金は事後給付です。入学時に係る費用(入学金、初回授業料など)は、事前にご準備頂く必要があります。
後日、係った教育訓練経費の一部が給付されますが、その間は全額ご自身で資金計画をお考えになる必要があります。
② 期の途中で受講を止めた場合は、止めた期の給付はありません。また、修了後1年以内の就職などの要件が満たせなかった場合の追加給付はありません。
③ ご自身の住所を管轄するハローワークにて申請手続きを行う必要があります。教育訓練給付金対象講座であっても、自動的に手続きがされるものではありません。
また、専門実践教育訓練給付金及び特定一般教育訓練に際しては、申請時に訓練対応キャリアコンサルタントのキャリアコンサルタントを受け、ジョブ・カードの交付を受けた後に受講開始日の1か月前までに手続きを行う必要があります。
④ 最後に、賃金上昇分の加算は「訓練終了後の賃金が受講開始前の賃金と比較して5%以上上昇した場合」に給付されます。もし、受講終了後に5%以上の賃金上昇とならなかった場合の他、昇給後に受講開始となった場合にも追加給付はありません。
ただし、それ以外の給付は条件が満たせば給付されます。
リスキリングに際しての「家計の強い味方」にするためにも、制度利用時には留意事項を意識し、キャッシュアウト、キャッシュインのタイミングを考慮した資金計画を考えることが大切です。(執筆:荒井正巳)
ジョブカードに主婦のキャリアを記載しよう!!
1.ジョブカードとは何ですか?
ジョブカード(JC)は、労働力人口が減少する中で、人材の労働市場への参加や社会の生産性の維持向上を目的に2007年2月内閣府にて「成長力底上げ戦略(基本構想)」の「3本の矢」の「人への投資」戦略として提言されました。2008年4月から公共職業訓練を修了した受講者を対象に発行されています。
厚生労働省の説明では、ジョブカード制度とは、「正社員経験が少ない方々が正社員となることを目指」して「職務経歴、学習歴・訓練歴、免許・取得資格等を記載」し、「常用雇用を目指した就職活動やキャリア形成に活用する制度」であるとされています。
加えて、JCの作成過程で求職者が、自らの職業意識やキャリア形成上の問題点を明確にして、職業選択やキャリア形成の方向づけを可能とすることが期待される制度であるとしています。
つまり厚生労働省では、JCの作成者とは正社員経験が少ない、過去5年間において概ね3年以上継続して正社員として雇用されたことがない求職者の方を想定しています。
具体的には「フリーター、子育て終了後の女性、母子家庭の母親など」とされています。
そもそも、就職氷河期世代など正社員としての職業経験の乏しい求職者が、それまでの職業経験や人生経験を整理して言語化することで、自分自身の強みや特徴を知ることが目的です。
2.主婦の職務経験とジョブカード
先日、JC作成のお手伝いをしました。
ご相談者・Aさんは、40代の主婦の方です。高校を卒業後に民間企業にお勤めになり、数年後同じ部署の方と社内結婚をされました。その後、ご懐妊を契機に退職され、ご出産後は家事と育児に専念しました。
お子様が小学校に入学したころから、お子様が学校に行っている時間帯に近所の事業所でパート勤務に出ました。今回、中学校進学を機に正社員としての求職者訓練を受け求職活動を始められました。
Aさんは、JCの作成に際し、「様式2 職務経歴シート」に所々空白期がありました。
Aさんとお話しさせて頂くと、空白期には主婦として家事や育児に専念されていたいわゆる「専業主婦」で、Aさんの言葉では「無職でしたから」とのことでした。
そこで、Aさんに今一度JC作成の目的について説明をさせて頂きました。
「JCは、Aさんのこれまでの社会人としての働いた記録を記載する者なんですよ。働くというのは有償である必要はなく、会社勤務である必要もないんですよ。ボランティア活動や家事手伝いも広い意味で社会の中で働くということであり、もちろん主婦も家事労働という立派な職務経歴なので是非記載してください。」とお伝えしました。
Aさんは「主婦」という経験が自分にとっての職務経歴になるということに大変驚かれたようでした。
Aさんには、「ただ主婦と書くだけではなく、<職務の内容>と<職務の中で学んだこと、得られた知識・技能等>欄も確り書いていただくことがポイントですよ」とアドバイスしました。
例えば、Aさんの場合、お子様が小さいときは子供会で夏祭りの実行委員となりイベントの企画運営をされたこと、またお子様が小学校に入学した後はPTAの役員も経験し、PTA会報の編集を行ったことは、組織力や調整力を示す経験です。また、その間ご両親の介護の問題も起こり、介護をしながら働くことを経験してきたこともワークライフバランスを実体験した大切な経験です。
主婦の仕事は、専門的に体系化された仕事というよりも、様々な役割を同時にこなすことが求められる<統合型のマルチタスク業務>と言えます。
ジョブカード(JC)のジョブとは「職務」です。「職業」ではなく、どの様な内容の仕事をしたかが重要です。
皆さんも、もしご自身の職務経験を振り返る際には、そんな視点で見てみるといいですね。
(執筆:荒井正巳)
キャッシュフロー表(CF)作成のポイント②
前回ご紹介したA様ご夫婦の作成したキャッシュフロー表(CF)の続き見てみましょう。
Aさんは40代の会社員です。
奥様は同い年の専業主婦ですが、時間の空いた時に知り合いのお店をパート勤務で手伝っています。ご主人の扶養範囲です。
ご夫婦には今年小学校に入学したお子様(第1子)がいらっしゃいます。
現在のお住まいは、ご主人の職場に近い都心部の賃貸マンションですが、将来はお子様の学校(私立中学進学)も考えて、教育施設の充実した田園都市線沿線の戸建て住宅を考えています。
今回は、将来の「教育資金」と「住宅購入資金」のご準備との点でCFを確認しました。
どちらも、将来発生する纏まったお金です。しかも、必要な時期を予め想定しておくことが出来ます。
1.「貯蓄残高」にはどの数字を記載したらいいか
Aさんは、CFの最下段にある「貯蓄残高」が資金の必要な時に、必要な資金がある様に意識しながら、年間収支をお考えになっていました。
素晴らしいお考えだと思いましたが、「貯蓄残高」内訳を拝見すると、「金融資産残高の総額」が計上されていました。
「貯蓄」という言葉は、経済学や政府の統計などでも様々な使われ方をしていますが、概ね3つに分類されます。
1つ目は、「投資を含むすべての金融資産等」です。現金・預金・投資(金融資産)だけでなく投資不動産や、将来受け取る年金・保険なども含めた広い範囲です。
2つ目は、「流動性の高い金融資産等のみ」とするものです。つまり、投資不動産や未だ受給額が確定していな年金などは除いた、今すぐに現金化できるものです。
そして、3つ目は「投資を除く、現預金のみ」とするものです。
さて、話をCF作成に戻します。
Aさんの場合、「貯蓄残高」は将来の必要資金(子供の教育資金や住宅購入資金)が必要な時に確実に確保出来なくてはいけません。
Aさんは、現預金の他に、株式投資や投資信託などの金融資産をお持ちになっています。現預金が約500万円、株や投資信託の残高が約300万円(時価)ですので、「貯蓄残高」に800万円を計上していました。
そこで、Aさんの貯蓄の目的などを確認し、AさんのCFの貯蓄残高には「現預金」のみを計上し、その他の金融資産については「その他金融資産」としてCF表の枠外に記載することを提案しました。
理由は、投資性が高い金融資産は「必要な時に必要な額が確実に手元に残るか分からない」からです。
そこで、先ずは、手元流動性の高い「現預金」での必要資金のカバー状況を確認し、「その他金融資産」については、別の行を設けて記載し、定期的に時価評価で見直していくこと。子どもの入学金や家の頭金など資金需要が具体的に近づいた時点で、現金と併せて資金準備が出来ているかを確認することが望ましい旨お話ししました。
もちろん、「金融資産残高」として計上することも間違いではありませんが、その場合「時価」は変動すること、「投資残高は投資元本を割り込むことも有る」ことを意識していないと、将来計画を甘く見積もってしまうことになりますので注意が必要です。
2.「補助金」「助成金」「給付金」の長期プランへの反映
また、現在支給を受けている児童手当を将来の入学資金のために貯蓄に回していました。
この考えは堅実に教育資金を確保するとの点からは好ましい対応であると思いますが、児童手当については、以下の点に注意する必要があります。
児童手当の中に子育て支援金などを含めた場合、子育て支援金などは各自治体によって所得制限が異なります。児童が国内に住んでいることが支給要件です。もし、ご家族で海外に赴任されるなどがあるとその間の児童手当の支給が停止されます。あくまでも、国の制度です。将来、支給額が減額となったり、お子様が18歳になるまでに制度が廃止となることも有り得ます。
「児童手当ありき」の教育資金のご準備にも不確定な要素が多くあります。
CFを作成し、将来の資金計画を検討される際には、不確定な要素は参考としておくといいかもしれません。
(執筆:荒井正巳)
キャッシュフロー表(CF)作成のポイント①
最近、40代のご夫婦のお客様(A様ご夫婦)から、ご自身で作成したキャッシュフロー表(CF)を検証して欲しいとのご依頼を頂きました。
A様は、ご主人が正社員として会社にお勤めの給与所得者で、奥様はパート勤務で、ご主人の扶養控除の対象となる範囲で働き方を調整をされていました。
今回は、お子様の教育資金と住宅ローンの見直しというテーマでのご相談でしたが、ご自身で作成したCFを基に、ご夫婦で将来計画を話しあったところ、「本当にこれで大丈夫?」という疑問が湧いたとのことで来所されました。
早速、A様がご持参したCFを拝見させて頂きますと、いくつか気になる個所がありました。
そこで、本コラムでは「意外と間違いやすい」CF作成のポイントを2回に分けて連載致します。
ポイント1:収入欄の金額は「可処分所得」で
A様ご夫婦は、ご主人と奥様それぞれの収入欄に「額面金額」を入力していました。
CFの収入欄をご主人と奥様のそれぞれ分けて入力されることは収入口を明確にするという点から正しい入力です。
ですが、入力する金額は「額面」ではなく「手取り金額」とした方が良いことをお話ししました。
「手取り金額」とは、所得税や住民税などの収入に課税される税金や、健康保険料や年金掛け金などの社会保険料を控除した、実質的に手元に入ってくる金額、すなわち「可処分所得」です。日本FP協会が発行する「今からはじめるリタイアメントプランニング」(2024年改訂版)でも「収入の欄は本人と配偶者に分けて手取り額で記入」とされています。
なぜ、額面ではなく手取り額とするのでしょうか?
憲法第30条にも納税の義務とういものがあります、課税所得がある場合に税金や社会保険料の納付は国民の義務とされています。つまり、税金や社会保険料相当額は「自分で自由にできるお金」ではありません。
また、会社員などの給与所得者は源泉徴収をされるので、税金相当が差し引かれた金額が入金されます。
そこで、CFでは「実際のキャッシュの動き」を把握するためにも「そもそも使えないお金」は入力しない方がシンプルになります。
ときどき、収入欄に額面金額を入力し、支出欄に「税金」という金額を設けて収支欄で一致させているケースが見られますが、支出欄はCFを基に単年度の収支や貯蓄残高を検証する際に「赤字の場合」に、お客様ご自身が改善できる金額を入力することで家計改善が出来ることが重要です。
調整項目には出来ない「自由に使えないお金」である税や社会保険料を支出欄に入力する必要はありません。
ポイント2:将来の収入の変化は参考で
Aさんがご持参したCFはご退職までの20年で作成していました。
Aさんは、ご自身の収入を毎年2%の上昇率で計算していました。現在約500万円の年収が20年目のご退職時点で約750万円となっていました。
2%にした理由をお聞きしたところ、「政府の目指しているインフレターゲットが2%と聞いたので」とのことでした。支出欄を拝見すると、こちらも日常生活費や家賃など2%の上昇率で設定していました、
一見合理的な考えの様に見えますが、物価の上昇率と給与の上昇率は連動するものでは無く、年収は会社の業績や、会社での役割等その時の事情により決まってきます。
また、物価上昇率はその時々の経済を取り巻く予測不可能な世の中の変化が大きく影響します。
基本は収入の上昇率や物価などの支出の上昇率を織り込まずに、世の中の状態が変化なく継続した場合にご自身のCFが適切に回っているか、もし回っていないなら「どこに改善の余地があるか」を見極めることからスタートし、そのうえで参考として「もし物価が〇%上昇した場合はどうか」「収入が増えた場合にはどの程度余裕が出るか」シナリオ分析をされることがいいでしょう。
※ 下記のボタンから日本FP協会公開のCF作成ツールがご利用いただけます。
(執筆:荒井正巳)